SSAI と CSAI 広告の違いとは?日本の動画配信業界向け解説
2025年現在、国内外を問わず動画広告市場が急速に拡大しています。特にOTT(Over-The-Top)配信サービスや FAST チャンネルなど、インターネットを通じてテレビやスマホ・タブレットで動画を提供するプラットフォームで、「広告の挿入方式」が視聴体験と広告収益を大きく左右する重要な要素となっています。
日本においても、ABEMAのスポーツ配信やTVerの見逃し配信、さらにはNHKプラスの同時配信など、広告挿入方式の選択が注目を集めています。
この記事では、CSAI(Client-Side Ad Insertion)とSSAI(Server-Side Ad Insertion)の違いを、日本の環境・視聴者・広告運用を念頭に置いて整理します。
関連記事:SSAI(サーバーサイド広告挿入)とは?
CSAI と SSAI の概要と仕組み
CSAI(クライアントサイド広告挿入方式)とは?
CSAI は、視聴者の端末(スマホ、タブレット、PC、スマートTV 等)側で広告を読み込み、再生中の動画の中に広告を挿入する方式です。動画プレイヤーが広告サーバーと通信して、“プリロール/ミッドロール/ポストロール広告”を取得し、再生を中断させたうえで広告を挿入、その後コンテンツの続きを再開します。日本でも従来から使われてきた方式で、ユーザーの行動履歴や地域データなどを使ったリアルタイムターゲティングがしやすいのが特徴です。

CSAI の仕組み:
- 動画の再生中に広告挿入口(広告マーカー)に到達 → プレイヤーが広告サーバーにリクエスト
- 広告サーバーが最適な広告を選定
- 広告再生 → 本編再生へ戻る
- インプレッション数、視聴完了率、クリック率などの計測を行う
SSAI(サーバーサイド広告挿入方式)とは?
SSAI は、広告を動画ストリーム自身にサーバー側で「縫い込む」方式です。広告とコンテンツがあらかじめ組み込まれた動画がサーバーから配信され、ユーザーは広告かコンテンツかを意識することなく、一続きのストリームとして視聴します。これにより広告ブロッカー(広告ブロック)を回避しやすく、視聴中のバッファリングや中断も減るため、OTT/FAST チャンネルやライブ配信に適しています。

SSAI の仕組み:
- 配信サーバー側で動画に広告マーカーを埋め込む
- 広告マーカーに到達 → サーバーが広告を選定
- 動画ストリームに広告を動的に挿入(ステッチング)
- 広告入りストリームを一本として配信 → 視聴者の端末には一続きに見えるストリームとして受け取られる
CSAI と SSAI の主要な違い(比較ポイント)
| 比較項目 | CSAI(クライアント側挿入) | SSAI(サーバー側挿入) |
| 広告の配信先/処理場所 | 視聴者の端末/プレイヤーが広告取得・再生を行う | サーバー側で広告を組み込んでストリームとして配信 |
| 広告ブロック耐性 | 低 → ブロック可能な場合がある | 高 → ストリームに“なじむ”ため検知しにくい |
| 視聴体験(UX) | 広告読み込みやバッファが発生する可能性あり | よりシームレスで途切れない再生が可能 |
| 対象/ターゲティング精度 | リアルタイムで視聴者のプロファイルに応じた広告が出しやすい | 多少制限あり。事前設定やセグメントでのターゲティングが中心 |
| 導入・運用の複雑性 | 比較的シンプル。既存のプレイヤーで対応できることが多い | インフラ/ストリーミング処理の高度な設定が必要。技術的コストがかかる |
| 適用しやすい場面 | VOD(ビデオ・オン・デマンド)/インタラクティブ広告/短尺など | ライブ配信/線形放送(リニア)/FAST チャンネル/広告ブロック対策重視 |
CSAI のメリット・デメリット
メリット:
- 高精度のターゲティングが可能(視聴履歴・デバイス情報など)
- インタラクティブ広告(クリック型、スキップ可能型など)との親和性が高い
- 導入コスト・技術要件が比較的低め
デメリット:
- 広告ブロッカーや拡張機能により広告が表示されない可能性
- 広告挿入時に再生の遅延やバッファが発生することもあり、視聴体験が損なわれるリスクあり
SSAI のメリット・デメリット
メリット:
- 視聴体験が滑らかで、広告とコンテンツの切れ目がほぼ感じられない
- 広告ブロッカーによる影響を受けにくい
- ライブ配信や線形ストリーミングで特に有効
デメリット:
- クリック可能なオーバーレイ広告等、インタラクティブ性のある広告形式が制限されることがある
- サーバー側でのストリーミング処理や広告管理に関する技術的な整備が必要
- 広告の差替えやカスタマイズ、リアルタイムターゲティングには限界があるケースがあ

日本における利用シーン/最適な選択
ここからは、日本の動画配信・広告業界でどちらを選ぶべきかのヒントです。
SSAI が有効なケース
- 地上波や衛星放送並みのリニア放送をインターネット上で配信する FAST チャンネルを運営する時
- スポーツ中継や音楽ライブなど、途切れが視聴体験を大きく左右するライブ配信が中心の時
- 広告ブロッカーの利用が多く、広告が視聴されないことによる収益漏れを最小化したい時
CSAI が有効なケース
- 視聴者ごとに広告内容をパーソナライズしたい時(性別・年齢・嗜好など)
- オンデマンドコンテンツ(ドラマ、映画、アニメなど)で、ユーザーが再生をコントロールできる環境が中心の時
- インタラクティブ広告やクリック誘導型広告、ブランドとの直接的なユーザーエンゲージメントを重視するキャンペーンを扱う時
導入コストと運用の視点
- CSAI:低コストで導入しやすく、DSPやSSPとの連携も容易。だが広告ブロック対策が課題。
- SSAI:インフラ構築コストが高い一方、安定した広告視聴率を確保でき、広告主からの評価が高い。
- ハイブリッド運用:日本市場でも「VOD=CSAI、ライブ/リニア=SSAI」という併用パターンが増加。大手広告代理店もこのモデルを前提に提案を強化している。
今後の傾向と日本における展望
- FAST チャンネルの普及:国内でもスカパー!やWOWOWオンデマンド、民放テレビ局のネット配信など、リニアストリーミング/チャネル型動画配信が増加傾向です。視聴者はテレビ番組のような体験を求め、広告もそれに応じた“切れ目の少ない”方式が好まれます。ここで SSAI の需要が高まるでしょう。
- 広告体験の重視 & UX向上:視聴中のバッファリングや広告の読み込み遅延は視聴終了率に直結します。競争が激しい中、ユーザー体験を損なわないことが差別化要因になります。
- 規制・プライバシー対応の強化:Cookie規制や個人情報保護法(APPI)の観点から、視聴者データの取り扱いがこれまで以上に慎重に、かつ透明に求められています。CSAI におけるターゲティングは今後、ファーストパーティデータやコンテクスチュアル広告(文脈広告)への依存が増すでしょう。
- ハイブリッドモデルの出現:ライブ配信やリニア放送には SSAI、VOD / キャンペーン広告には CSAI と使い分けるハイブリッド方式を採用する事業者が増えています。
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結論
CSAI と SSAI、どちらが「正解」というわけではなく、自社の配信形態(ライブか VOD か)、視聴者の環境、広告商材やキャンペーンの目的(ブランド訴求かクリック誘導か)、そして技術・コストの準備状況に応じて選択するのが最善です。日本の動画配信業界においては、 FAST チャンネルやライブ配信が増える流れを受けて、SSAI の採用が一層拡大する可能性が高いですが、パーソナライズやインタラクティブ性を重視する用途では CSAI も引き続き重要な手法であり続けます。
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